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2026/06/30 22:38

環境保護で知られるパタゴニア(Patagonia)に、一般のカタログにも店頭にも並ばない「もうひとつの顔」があることをご存じでしょうか。アメリカの特殊部隊のために、コストを度外視して作られた軍用被服プログラム——それが「Lost Arrow Project(ロストアロー プロジェクト)」です。一般流通がほとんどなく、プログラム自体もすでに役目を終えたいま、その希少性から古着・ヴィンテージ市場で価格が高騰し続けています。この記事では、Lost Arrow Projectとは何か、母体となったPCUという被服システム、代表的なアイテムと年代・見分け方、そして手に入れた一着を長く楽しむためのお手入れまで、古着屋の視点で整理しました。


Lost Arrow Project(ロストアロー プロジェクト)とは

Lost Arrow Projectは、パタゴニアがアメリカ特殊作戦軍(USSOCOM)をはじめとする軍・政府向けに展開していた軍用被服プログラムです。Navy SEALsやDEVGRUといった、いわゆる「Tier1」と呼ばれる最前線の部隊が使用することを想定し、過酷な環境下で最高の性能を発揮するために、市販品とはまったく別の基準で設計・製造されました。

最大の特徴は、一般のカタログにも店頭にも並ばないという点です。購入には特定の条件を満たす必要があり、私たち一般の消費者が正規に手にすることは基本的にできませんでした。素材も縫製もコスト度外視で、当時の卸価格でも1着あたり1,000ドル前後という、まさにハイエンドのギアです。だからこそ、放出された個体が古着市場に現れると、コレクターから熱い視線が注がれることになります。


母体となった「PCU」という被服システム

Lost Arrow Projectを理解するうえで欠かせないのが、PCU(Protective Combat Uniform)という考え方です。これはアメリカ特殊作戦軍向けに開発された寒冷地用のレイヤリング(重ね着)システムで、登山家マーク・トワイト氏の著書『Extreme Alpinism』で示されたレイヤリング理論が下敷きになっています。一枚の万能な服ではなく、役割の違う複数のレベルを組み合わせることで、摂氏に換算しておよそ7℃から氷点下45℃という幅広い環境に対応します。

PCUは、おおむね次のようなレベルで構成されます。

 ・Level 1/1A:肌に直接着る、汗を逃がすベースレイヤー。

 ・Level 2/3:保温を担うフリースの中間レイヤー。

 ・Level 4:薄手の防風シャツ(ウインドシャツ)。

 ・Level 5:行動中の基本となるソフトシェル。

 ・Level 6:ゴアテックスのハードシェル(防水)。

 ・Level 7:静止時の保温を担うハイロフトの中綿ウェア。

 ・Level 9:迷彩のフィールドユニフォーム(戦闘服)。

パタゴニアはこのPCUの製造に深く関わったメーカーのひとつでした。そして、約15年使われてきたPCUをさらに刷新するために、ゼロから新しい被服システムを開発します。それが「MARS(Military Alpine Recce System)」と呼ばれる、Lost Arrow Projectの中核となるシステムです。複数のレベルを組み合わせる発想は受け継ぎつつ、素材の進化によってレイヤー数を絞り込み、より少ない枚数で目的の性能を得られるよう設計されています。古着のタグや商品名で見かける「MARS」という表記は、このシステム名に由来します。


代表的なアイテム

Lost Arrow Project/MARSには、PCUのレベルに対応する形でさまざまなアイテムが存在します。Sereneでこれまでにお取り扱いした実例を挙げると、その幅広さがよくわかります。

 ・DASパーカー:化繊中綿を封入した保温アウター。DASは「Dead Air Space(デッドエアスペース=動かない空気の層)」の略で、空気をためて暖かさを生む構造を指します。

 ・ナノエア ジャケット(Nano-Air):行動中も蒸れにくい、ストレッチ性の高い化繊中綿ジャケット。民生ラインでは東レと共同開発した「FullRange®」中綿で知られるモデルです。

 ・フラーリー シェルジャケット(Flurry Shell):防水透湿の3レイヤーシェル。強風・豪雨に耐える、いわばハードシェルの位置づけ。

 ・3S コンバットシャツ:3シーズン対応のフィールドシャツ。マルチカム(Multicam)系の迷彩で、肘の補強や立体縫製など実戦仕様。

 ・レベル別のレイヤー類:Level4のウインドシャツ、Level6のゴアテックスパンツ、L3Aのライトロフトシェル、Level9のテンペレートブラウスなど、PCUのレベルに沿ったアイテムが揃います。

いずれも「ミニマルで質実剛健」というパタゴニアらしさと、軍用ならではの機能が同居しているのが魅力です。タクティカルな用途を離れて、街着のアウターとして取り入れる楽しみ方もできます。


年代と見分け方

Lost Arrow Projectのアイテムを見分けるとき、手がかりになるのは次のようなポイントです。

 ・Made in USA:軍・政府調達の基準である「Berry Amendment(ベリー修正条項)」に準拠するため、生地から縫製までアメリカ国内で完結しているのが基本です。

 ・タグ・マーキングの表記:商品名や内タグに「Lost Arrow」「MARS」、PCUの「Level(L1〜L9)」表記が入ることがあります。アイテムによっては、英国軍由来の「ブロードアロー(矢印型)」マークが入る個体も見られます。

 ・カモ柄:マルチカム系をはじめとする迷彩が多く、民生品にはない配色が見られます。

年代の目安として大切なのが、2022年にLost Arrow ProjectがForgeline Solutions社へ移管され、パタゴニアが製造から撤退したという出来事です。つまり「パタゴニアが製造した本来のLost Arrow」は、それ以前に作られた個体に限られます。古着・ヴィンテージとしての価値を語るうえで、この移管が一つの区切りになると考えてよいでしょう。なお、年式や正確な仕様は個体差が大きいため、Sereneでは各商品ページに実寸とわかる範囲の情報を記載し、確認できない点は断定しないようにしています。

なぜ価格が高騰しているのか

理由はシンプルで、需要に対して供給が極端に少ないからです。もともと一般販売されず、限られた部隊にのみ支給された装備であること。製造にコストがかかり、流通量がもとから少ないこと。そして、パタゴニアが製造から撤退し、今後「パタゴニア製の新品」が増えることはないこと。これらが重なり、新品未使用(デッドストック)の個体はとりわけ希少です。コレクション性と実用性を兼ね備えた一着として、数年先を見据えた資産価値の面でも注目されています。


お手入れ・取り扱いの注意点

高機能ゆえに、お手入れにもいくつか押さえておきたい点があります。性能を長く保つために、素材ごとの特性を意識してみてください。

 ・洗濯表示を最優先に:軍用ギアは個体ごとに仕様が異なります。まずは内タグの洗濯表示を確認し、それに従うのが基本です。

 ・撥水(DWR)は洗うとよみがえる:シェルやウインドシャツの撥水は皮脂や汚れで落ちます。表示の範囲で優しく洗い、低温の乾燥や当て布アイロンの熱で撥水基を立て直すと回復することがあります。撥水が弱ったら専用の撥水剤で補うのも有効です。

 ・ゴアテックスなどの防水シェルは「適度に洗う」:汚れたまま放置すると透湿性が落ちます。柔軟剤や強い洗剤は膜を傷めるため避け、すすぎをしっかりと。

 ・化繊中綿は基本的に水洗い可、ただし優しく:DASパーカーやナノエアのような化繊中綿は、ダウンより水濡れに強いのが利点。とはいえ型崩れを避けるため、洗濯ネットや弱水流を活用し、しっかり乾かしてから保管を。

 ・保管は風通しよく、直射日光を避けて:高温多湿はコーティングや生地の劣化につながります。シーズンオフは詰め込まず、ゆとりをもって。

判断に迷うデリケートな素材は、無理に家庭で処理せず、アウトドアウェアや特殊素材に対応したクリーニング店に相談すると安心です。


Serene(セリーン)のLost Arrow Project

古着屋Serene(セリーン)では、Patagonia Lost Arrow Project/MARSのアイテムを、状態を確認したうえで一点物としてセレクトしています。現在は、新品未使用デッドストックのフラーリー シェルジャケット(Lost Arrow/XL)などをお取り扱い中です。最新の在庫は、下記のブランド・カテゴリページからご覧いただけます。

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