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2026/07/27 00:13
L.L.Beanのボートアンドトートは、内側に付いた小さなタグひとつで年代が読めます。決め手は縁のギザギザではなく、ロゴの右肩が「T.M.」か「®」か、そして「BOAT AND TOTE」の行があるかどうか。この二点で、70年代か80年代か、あるいはそれ以降かがほぼ絞り込めます。
ここでは、タグの変遷を年代順に整理したうえで、当店に実在する1970年代・1980年代・2000年代の個体を並べて、実物では何がどう違ったのかを書きました。タグが擦り切れて読めない個体のために、ハンドルの色や底の作りといった別の手がかりも添えています。

ボートアンドトートとは?1944年、氷を運ぶための袋だった
ボートアンドトートの原型は、1944年に発売された「Bean's Ice Carrier(ビーンズ・アイスキャリア)」です。当時はまだ家庭用の冷蔵庫が普及しきっておらず、氷屋から買った氷の塊を家まで運ぶ必要がありました。その重さと湿気に耐えるために、創業者のレオン・レオンウッド・ビーンが厚手のキャンバスで作った袋。それが始まりです。
ところがこの氷運び袋は、たった1シーズンで姿を消しました。戦時中の物資統制が影響したとも言われています。
再登場したのは20年後の1965年の夏。今度は氷ではなく、ボートに積む道具や身の回りのものを運ぶ袋として、赤と紺のマリンカラーをまとって「Boat and Tote」の名で復活します。ニューイングランドの海辺の生活を象徴する存在になり、やがてL.L.Beanで最も売れるアクセサリーになりました。
作りは今も当時と大きく変わりません。
・24オンスのコットンキャンバス:工場のコンベアベルトに使われるのと同じ厚みの生地だとメーカー自身が説明しています。
・ハンドルは500ポンドの荷重試験:約227キロ。持ち手が本体を包み込むように縫い下ろされた構造で、荷重を底まで逃がします。
・底は二重+V字のポイント:底面の四隅に向かってV字の縫い返しが入ります。現在もメイン州ブランズウィックの自社工場で縫われています。
2024年には発売80周年を迎え、ヴィンテージ専門店ウドゥン・スリーパーズ(Wooden Sleepers)と組んだ一点物24点のコレクションが組まれました。古着としてのボートアンドトートが、ブランド自身にも「資産」として扱われはじめたということです。
L.L.Bean(エルエルビーン)とは|返品90足から始まった会社
L.L.Beanの創業は1912年、アメリカ・メイン州フリーポート。創業者のレオン・レオンウッド・ビーンは1872年生まれの狩猟家で、学校は8年生(日本の中学2年にあたる学年)までで離れています。
きっかけは1911年の狩り。重いゴム長靴で足を濡らして帰ってきた彼が、ゴムの底に革のアッパーを組み合わせた「メイン・ハンティング・シュー」を思いつきました。翌1912年、州外の狩猟免許保持者名簿を手に入れ、弟の地下室を作業場にして通信販売を始めます。
ところが最初の100足のうち90足が「底と革が剥がれた」と返品されました。彼は全額を返金し、構造を直し、また案内状を送り直します。この一件が、のちにL.L.Beanの代名詞となる返品保証の原点になりました。ちなみにそのブーツは、今も「ビーンブーツ」としてほぼ当時の設計のまま作られ続けています。
頑丈に作る、駄目なら直す、そして長く使う。ボートアンドトートが50年前の個体でも現役でいられるのは、この考え方が最初から製品に入っているからです。
タグの変遷|年代順に整理する
ここからが本題です。L.L.Beanのタグは、おおよそ次のように移り変わってきたと整理されています。年代の境目は資料によって前後するため、断定できるものは「〜頃」として書きます。
・1940年代頃/黒タグ:黒地に金の刺繍。楕円の枠に囲まれた最初期型です。
・1950年代頃/筆記体タグ(黒地):金の筆記体で「L.L.Bean」。「INC.」と「FREEPORT, ME.」が入ります。
・1960〜70年代頃/筆記体タグ(白地):地色が白に変わり、上部に「MADE BY」が付きます。
・1970年代頃/筆記体タグ(太字):筆記体が太くなり、右肩に「T.M.」が入ります。住所表記が「FREEPORT, ME.」から「FREEPORT, MAINE」へ。
・1970年代半ば〜/ブロック体・単色タグ:筆記体からブロック体に切り替わります。緑の刺繍で「L.L.Bean T.M.」「FREEPORT, MAINE」。
・1970年代後半〜80年代/二色タグ:緑のロゴの下に、青い刺繍で「BOAT AND TOTE」の行が加わります。トート専用の表記が生まれた瞬間です。当初はロゴ側が「®」、BOAT AND TOTE側が「TM」の混在型があり、やがて両方が「®」になります。
・1990年代以降/単色のゴシック体タグ:二色の刺繍が終わり、緑一色のすっきりしたタグへ。のちに「FREEPORT, MAINE」の表記が本体タグから消え、「Made in USA」が別札で付くようになります。
大づかみに言えば、筆記体なら60〜70年代、ブロック体の二色なら70年代後半〜80年代、単色のゴシック体なら90年代以降。この三段階を頭に入れておけば、店頭でおおよその見当は付きます。
年代判別の決め手は三つ|T.M.と®/BOAT AND TOTEの行/単色と二色
当店には1970年代と1980年代のボートアンドトートが同時に在庫しています。二つを並べて撮ったタグの違いが、そのまま判別の教科書になっていました。

1970年代の個体(ローズレッド)のタグは、こう書かれています。
・Made by / L.L.Bean T.M. / FREEPORT, MAINE
・刺繍は緑の一色のみ。
・「BOAT AND TOTE」の行が無い。
一方、1980年代の個体(レッド)のタグはこうです。
・Made by / L.L.Bean® / FREEPORT, MAINE / BOAT AND TOTE®
・ロゴが緑、BOAT AND TOTEが青の二色刺繍。
・ロゴ側もトート側も両方に「®」が付く。
「T.M.」は商標として使用を主張している状態、「®」は登録が済んだ状態を表す記号です。つまりT.M.のタグは、そのロゴの商標登録が完了する前に作られた個体ということになります。年代を後ろから絞り込む、かなり信頼できる手がかりです。
加えて「BOAT AND TOTE」の行の有無。トート専用の表記が付くようになったのは商品名が定着してからなので、この行が無い個体は、あるものより確実に古いと読めます。当店の70年代の個体は、T.M.かつBOAT AND TOTE行なし。二つの条件が同じ方向を指しています。
「ギザタグ=70年代」ではない
ここが、古着屋の店頭でいちばん誤解されやすいところです。
L.L.Beanのヴィンテージを語るときによく出てくる「ギザタグ」という言葉は、タグの縁がギザギザ(ピンキング)にカットされたものを指します。英語圏では「ソートゥース(sawtooth=のこぎり歯)タグ」と呼ばれ、古い個体の象徴として扱われてきました。
ところが実物を並べると、話はそう単純ではありません。当店の1970年代の個体も、1980年代の個体も、どちらも縁はギザギザです。つまりギザギザであること自体は「そこそこ古い」ことしか示さず、70年代なのか80年代なのかまでは切り分けられません。
ギザ縁は入口の目印。そこから先の年代は、T.M.か®か、BOAT AND TOTEの行があるか、刺繍が単色か二色かで読む。この順番を踏むと、判別の精度が一段上がります。「ギザタグだから70年代です」という説明を見かけたら、タグの中身をもう一度見てみてください。
タグが読めない個体の手がかり|ハンドルの色・サイドの青い線・底のV字
長く使われたトートは、タグが擦り切れて文字が飛んでいることがあります。そんなときに当たりを付けるための、タグ以外の手がかりを挙げます。当店の在庫4点を見比べて、実際に差が出た箇所です。
・ハンドルの色:当店の70年代と80年代の個体は、ハンドルが生成りのキャンバス地のままで、色が付いているのは本体のトリム部分だけでした。対して2000年代の2点は、ハンドルがトリムと同じ色に染められています。手元の4点はこの点できれいに分かれました。全個体に当てはまる法則として断定はできませんが、店頭で最初に目が行く箇所なので、当たりを付ける材料にはなります。
・サイドに走る青い線:70年代の個体には、脇のマチに沿って細い青の縦線が入っています。キャンバスを裁つときの目印(ガイドライン)が残ったものと言われ、古い個体で見かける特徴です。使い込むほど薄くなるため、はっきり残っている個体は状態の良さの証しでもあります。
・底のV字ポイント:底面の四隅に向かってV字に縫い返しが入る構造は、現在も引き継がれている本家の目印です。年代を絞る役には立ちませんが、本物かどうかを見るポイントとしてメーカー自身が挙げています。
・キャンバスの目と厚み:古い個体ほど生地が硬く、目が詰まっています。逆に20年ほど使い込まれたものは、デニムのように角が白く擦れ、布が柔らかく落ちてきます。この「くたり方」も年代の感触として頼りになります。
モノグラム刺繍という、前の持ち主の痕跡
ボートアンドトートには、購入時に名前やイニシャルを刺繍で入れられるモノグラムサービスが古くからあります(現行では10文字まで)。そのため、ヴィンテージのボートアンドトートには他人の名前が入っている個体が珍しくありません。
これを敬遠する方もいますが、古着として見るなら、むしろ一点物である証明です。当店の1980年代の個体には赤い筆記体で「Fred」と入っています。40年前のどこかの誰かが、自分のトートとして名前を入れて使っていたということ。書体そのものも当時のもので、現行のフォントとは少し表情が違います。
2000年代のミントの個体に入っているのは「Tomoko」。トリムと同じミント色の糸で刺繍されています。日本語の名前ですから、日本のどこかで20年以上使われてきた個体なのだと思います。海を渡った一つが誰かの日常に収まって、また巡ってきた。名前が残っているからこそ辿れる来歴です。
1970年代の個体には、苺と蔓を描いた飾り模様の中に、飾り文字のイニシャルが手描きで入っていました。純正の刺繍ではなく、持ち主が自分で描き足したものと見られます。50年前の持ち主の趣味がそのまま残っている、という点では刺繍以上に個体差の出る部分です。
なお、モノグラムを解いて外した跡が残っている個体もあります。糸を抜いた穴が薄く残るため、光に透かすと元の文字が読めることがあります。これも「一度は誰かの持ち物だった」という記録です。
サイズ展開と、キャンバスの手入れ
現在のボートアンドトートは、ジップトップポーチ、ミニ、スモール、ミディアム、ラージ、エクストララージという展開です。中でもミディアムが最も売れるサイズとされています。
当店で扱っているヴィンテージも、すべてミディアム。実寸で横幅44cm・高さ30cm・マチ14cmです。13インチ前後のノートPCが問題なく入り、通勤にも小旅行にも使える大きさで、ヴィンテージのボートアンドトートを一つ目に選ぶならこのサイズが扱いやすいと思います。
手入れについても触れておきます。24オンスのコットンキャンバスは丈夫ですが、ヴィンテージは新品と同じ扱いをすると傷みます。
・洗うなら手洗いで、部分洗いから:全体を水に浸すと色の濃いトリムからキャンバスへ色が移ることがあります。汚れた箇所を中性洗剤でつまみ洗いするのが基本です。
・乾燥機は避ける:熱でキャンバスが縮み、形が歪みます。陰干しで、形を整えて自然乾燥させてください。
・漂白剤は慎重に:白いキャンバス部分の染みには有効な場合もありますが、刺繍やトリムに掛かると色が抜けます。使うなら綿棒などで狙った箇所だけに。
・型崩れは中身で防ぐ:使わない期間は新聞紙や布を詰めて自立させておくと、折り皺が定着しません。
Sereneのボートアンドトート在庫|年代別の実物から
当店では、店主が一点ずつ真贋とコンディションを確認したうえで、実寸を記載して販売しています。この記事で触れた個体は、いずれも現在の在庫です。
・1970年代・ローズレッド/T.M.の単色タグ:BOAT AND TOTEの行が無い古いタグが残る一点。苺の飾り模様が描かれ、サイドには青いガイドラインも見えます。ハンドルや底に使用の痕跡がほとんど無い希少な状態です。商品ページはこちら
・1980年代・レッド/二色タグ(®):緑と青の二色刺繍に両方の®が入る、80年代らしいタグの個体。赤い筆記体で「Fred」のモノグラムが入ります。使用感のほぼない良好なコンディション。商品ページはこちら
・2000年代・パープル:現行にはない色で、ハンドルまで同色に染められた仕様。20年以上を経てキャンバスが柔らかく落ち、デニムのような表情に育っています。商品ページはこちら
・2000年代・ミント:淡いミントも現行では見かけない色味。トリムと同色の糸で「Tomoko」のモノグラムが入る、来歴の見える一点です。ダメージや汚れはありません。商品ページはこちら
・1970年代・マウンテンパーカー(オフホワイト):トート以外のL.L.Beanも扱っています。コットン100%の70年代のライトアウター。商品ページはこちら
タグの中身が読めるようになると、店頭で袋の中を覗き込む時間が少しだけ楽しくなります。50年前の氷運びから続く一枚のキャンバスを、次の持ち主として引き受けてみてください。