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2026/08/15 17:53

ヴィンテージのパジャマシャツは、どこを見れば年代が分かるのか。結論から言えば、決め手は柄でもブランドでもなく、タグに書かれていないものです。

Serene には現在、1950年代から1990年代までのパジャマシャツが4点あります。アメリカ製が2点、カナダ製が1点、イタリア製が1点。うち1点は未使用のまま残っていたデッドストックです。この4点を並べると、年代の読み方と、時代とともに省かれていった工程が見えてきます。

パジャマシャツとは|寝間着が外に出るまで

パジャマという言葉は、ヒンディー語・ウルドゥー語の「パージャーマー」から来ています。さらに遡るとペルシア語で脚衣を指す言葉で、もとは腰紐で締める緩やかなズボンのことでした。19世紀の終わりごろ、インドで男性がはいていたこの衣服がイギリス経由でヨーロッパに伝わり、寝巻として定着します。

それまで西洋の男性の寝巻はナイトシャツ、つまり丈の長い一枚布の被り物でした。上下に分かれた前開きのパジャマは、そこに置き換わる新しい形として広まります。

重要なのは、パジャマが最初から「部屋着の礼装」として売られたことです。1920年代のカタログには、アールデコ柄やジャカード織に加えて、パイピング、パスマントリー(飾り紐細工)、白蝶貝のボタンで飾られた品が並びます。ボタンではなくチャイニーズ・フロッグ留めのパジャマシャツも珍しくありませんでした。眠るためだけの服なら、そこまでの装飾は要りません。

縁取り(パイピング)の正体|軍服の飾り紐が寝間着に来るまで

パジャマシャツの襟や袖口に走る、別色の細いテープ。日本語で調べると「布端のほつれを防ぎ、同時に装飾になるもの」と説明されます。玉縁とも呼ばれる、裁縫用語としては正しい説明です。

ただ、それだけでは説明がつかないことがあります。なぜ襟先と袖口と胸ポケットの口という、その3か所だけなのか。なぜわざわざ別の色なのか。ほつれ止めが目的なら、縫い代を始末すれば足りるはずです。

答えは装飾の系譜のほうにあります。この細い飾り紐は、もとをたどれば17世紀から19世紀の軍服の装飾です。ブレード(平打ちの飾り紐)と紡錘形のフロッグボタンを組み合わせた留め方はフロッギングと呼ばれ、当時の軍服を特徴づける意匠でした。それが19世紀に室内着へ移ります。ドレッシングガウン、スモーキングジャケット。男性が屋内でくつろぐための服が、軍装の格式を借りたわけです。

パジャマはその流れの先にあります。つまり縁のテープは、機能から生まれた仕様ではなく、格を示すための記号として最初から付いていました。ほつれ止めは後から付いてきた効能です。

1930年代になると、男物パジャマの意匠はひとつの型に落ち着きます。身頃はストライプ、チェック、小紋、水玉などの柄。襟は無地に別色の縁取り。この「柄の身頃に無地の縁取り」という組み合わせが定型になりました。1960年代のカタログにも、ブレード、コントラストパイピング、フロッグ留めは定番の装飾として残り続けます。

もうひとつ、当時の事情を挙げておきます。男物の寝巻を買っていたのは、多くの場合その妻や母でした。着る本人ではなく買う人に向けた仕様だったからこそ、見た目の作り込みが標準装備になった、という背景があります。

コードパイピングと平ブレードは別物

日本ではどちらも「パイピング」と呼びますが、作り方は別物です。

 ・コードパイピング:芯となる紐を細い布でくるみ、縫い代に挟み込んで縫う。断面が丸く盛り上がるので、指でなぞると芯の存在が分かります。

 ・平ブレード(平打ちのテープ):芯を入れず、平たいテープを縁に沿わせて縫い留める。表からステッチが見え、断面は平らです。

Serene の在庫では、BRENT のチェックが後者です。襟の折り返し、胸ポケットの口、両袖口に、濃いブラウンの平テープが縫い留めてあります。テープの下は布が二重になるので、擦れやすい襟先と袖口が傷みにくい。装飾から始まった意匠が、結果として長く着られる作りにもなっています。

残る3点にはこの縁取りがありません。縁取りの有無はブランドと価格帯の差であって、年代の証拠にはならないと考えたほうが安全です。

年代の見分け方①|タグに書かれていないものが年代を決める

ここが、ヴィンテージのパジャマシャツで最も確実な手がかりです。組成表示が付いていないこと自体が、年代の証拠になります。

 ・アメリカ:繊維の組成表示を義務づける Textile Fiber Products Identification Act の規則が施行されたのは1960年3月3日。これ以降にアメリカで流通した衣類には、原則として繊維名の表示が入ります。

 ・カナダ:Textile Labelling Act が施行され、組成表示と CA 番号(業者を示す識別番号)の制度が始まったのは1972年12月1日です。

この2つの日付を知っていると、タグを1枚見るだけで年代の下限が決まります。

Pleetway の軍帽柄には、ネックタグに「Pleetway / SANFORIZED / Balloon Seat REGISTERED / PAT'D 2179675」とあるだけで、組成表示のタグがありません。つまり1960年3月より前の個体ということになります。さらにタグの特許番号 2179675 は1939年11月発行のもので、当時の特許期間は17年、1956年に失効しています。この2つを重ねると、年代は1950年代に絞られます。

Sears のカナダ製も同じ読み方ができます。タグは「PREMIERE / Sears」と、MADE IN CANADA / FAIT AU CANADA の英仏併記のみ。組成表示も CA 番号もありませんから、1972年12月より前。加えて、この時期のカナダの Sears は Simpsons-Sears という合弁の名で流通していた時期があり、「Sears」単独の表記と合わせて70年代前半と見ています。

注意点をひとつ。これは「無いこと」を根拠にする読み方なので、タグが切り取られていたり、洗濯で脱落している個体には使えません。あくまでタグが残っている前提の手がかりです。

年代の見分け方②|加工名と繊維名が語る年代

タグに書かれている言葉のほうにも、年代の目盛りがあります。

 ・SANFORIZED:防縮加工の登録商標。1930年代から広く使われた表記で、それ自体は年代を狭く絞りませんが、綿製品の時代性を示します。Pleetway のタグに入っています。

 ・DACRON(ダクロン):デュポンのポリエステルの商標。BRENT のタグは「65% DACRON POLYESTER / 35% COMBED COTTON」。

 ・NEVER NEEDS IRONING:アイロン不要をうたう文句。合成繊維との混紡でこれを大きく打ち出すのは、イージーケアが売り文句になった1960年代半ば以降の特徴です。BRENT はこの表記と組成表示の両方があるため、上の①とは逆に「表示があること」から60年代半ば以降と分かります。

 ・COMBED COTTON(コーマ糸):短い繊維を梳き取った上位の糸。混紡でありながらわざわざ明記しているのは、当時のこの価格帯の品質表示です。

 ・4か国語の品質表示Perofil のゴルフ柄は、COTONE / COTTON / COTON / BAUMWOLL と4か国語で組成が入ります。ヨーロッパ域内の輸出を前提にした仕様で、この形は1980〜90年代に多く見られます。ブランド名「perofil」が生まれたのが1960年であることと合わせて、年代を絞り込めます。

年代の見分け方③|背中の三角の当て布

パジャマシャツを裏返す前に、まず背中を見てください。襟の下から、下向きの V 字に走る切り替えが入っていることがあります。三角形の生地を背の中心に継いだもので、寝返りを打ったときに背中が突っ張らないように入っている当て布です。

これが面白いのは、着る人からも見る人からも、ほとんど気づかれない場所にあることです。柄物であればなおさら分かりません。見た目に何の得もないのに、パーツを1枚裁って縫い込む工程が増えます。現代の量産で真っ先に消える種類の手間です。

Serene の4点では、Pleetway(50s)、BRENT(60〜70s)、Sears(70s)の3点に入っていて、Perofil(80〜90s)にはありません。

もうひとつ、Sears には工程を省いた跡が見えます。袖口にカフスの別布を重ねず、縫い返しただけで仕上げてあるのです。当て布は残しつつ、袖口は簡略化されている。作り手が何を残して何を落としたのか、その判断が個体に残っています。

ひとつの軸で年代を決めない

ここまで読むと、当て布のある・なしで年代が読めそうに思えます。実際、古着の年代判別ではこの種の単一の軸がよく語られます。ただ、それは危険です。

当て布が無い Perofil は、確かに4点のなかで最も新しい個体です。しかしこの1点だけがイタリア製でもあります。アメリカとカナダの寝間着の作りと、イタリアの肌着メーカーの作りを同じ物差しで並べて「新しいから省かれた」と結論づけるのは、飛躍があります。地域の違いなのか、時代の違いなのか、この4点だけでは切り分けられません。

年代を読むときは、法令に紐づく手がかり(組成表示・CA番号)を軸にして、加工名・繊維名・生産国表記を重ねる。作りの手間は年代の傍証にはなっても、単独の決め手にはしない。そのくらいの距離感が、実物を扱っていて妥当だと感じています。

サイズは表記でなく実寸で見る

ヴィンテージのパジャマシャツはサイズ表記が統一されていません。Serene の4点だけでも、A(当時の号数表記)、B = MEDIUM、40(FITS 38-40)、48(イタリア表記)とすべて異なります。

そのうえ身頃は箱型に近い作りなので、表記を信じるより実寸で判断したほうが確実です。参考までに4点の実測値を並べます。

 ・Pleetway 50s:着丈73 / 肩幅49 / 身幅57 / 袖丈60(cm)

 ・BRENT 60〜70s:着丈72 / 肩幅48 / 身幅58 / 袖丈61(cm)

 ・Sears 70s:着丈72 / 肩幅49 / 身幅57 / 袖丈58(cm)

 ・Perofil 80〜90s:着丈76 / 肩幅49 / 身幅55 / 袖丈57(cm)

4点とも身幅55〜58cmで、日本のサイズ感ではM〜Lにあたります。前を開けて羽織るなら、Tシャツの上でも窮屈になりません。薄手の平織りなので、夏は一枚で、秋口は上に重ねる使い方になります。

Serene(セリーン)のヴィンテージパジャマシャツ

記事で挙げた4点は、いずれも実物のタグと縫製を確認し、実寸を記載しています。

 ・Pleetway(プリートウェイ)50s 軍帽柄:19世紀の各国の軍帽を描き分けた総柄。組成表示のないタグと1939年の特許番号から50年代の個体。

 ・BRENT(ブレント)60〜70s ブラウンチェック:未使用のまま残っていたデッドストック。襟・胸ポケット・両袖口に濃いブラウンの平ブレード。通販最大手モンゴメリー・ワードの自社ブランド。

 ・Sears(シアーズ)70s ブルー小紋柄:カナダ製。英仏併記のタグと CA 番号の不在から1972年12月以前。

 ・Perofil(ペロフィル)80〜90s ゴルフ柄:イタリア・ベルガモの老舗。ゴルフ道具をスカーフのように継ぎ合わせた総柄。

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